文科省「学校事故対応に関する調査研究」に対する要望書
「学校事故対応に関する調査研究」に対する要望書
学校事故対応に関する調査研究有識者会議
渡邉正樹座長
文部科学省スポーツ青少年局
学校健康教育課 大路正浩課長
平成27年2月20日
京都市立養徳小学校プール事故
死亡児童両親
平成24年7月30日に起きた京都市立養徳小学校プール事故で死亡した浅田羽菜の両親より、この度の調査研究において、ぜひとも私たちへの聴取をお願いしたく、ここに要望書を提出させていただきます。
娘の事故において、教育委員会と両親が協力して調査を進める態勢がありながら、なぜ十分な検証が行えなかったのか、真の原因究明のために、教育機関と調査機関のとるべき姿勢とはいかなるものだったのかについて、自身の体験としてお話できること、ぜひお伝えしたいことが主に3つあります。以下に、その概要をお示しします。
①事故直後からの、当事者(学校および教育委員会と、遺族)以外の組織によるサポートの必要性について
事故直後、教育機関の事後対応をサポートすると同時に、事故そのものについて、迅速で系統的なデータ収集を指揮する組織が必要です。また、個々の事例を解明する上で、真に実証的な調査とはどのようなものか、またそのような調査を行うために必要な専門家および協力を仰げる専門家は誰かということについても、情報を集積し、データベース化することが望まれます。
②調査委員会の制度設計について
現在の調査委員会は、個々の事例に即してその都度設置されることがほとんどです。委員となった各領域の専門家同士がどう連携し、調査の方向性や見解をどのように共有していけばよいのか。また、どのように当事者に向き合い、どのような形で調査結果を公表するべきなのか。そのような調査委員会のあり方についても知見を集積し、いかなる制度設計をすべきかについての認識を共有していくことが必要と思われます。
③調査結果にかかわる責任の所在について
娘の事故調査委員会は、一方当事者たる教育委員会の附属機関として設置されました。こうしたとき、調査結果に対する説明責任、ならびに調査資料の保管責任がどこに帰属するのかという問題が生じます。どのような設置状況であれ、調査結果にかかわる責任の所在を明確化し、調査全体のマネジメントを行っていく上位組織の存在が望まれます。
平成24年7月31日、私たちの一人娘、羽菜(はな)は養徳小学校における夏休みの課外水泳指導で生じた溺水事故により、6歳5ヶ月でこの世を去りました。事故後の経緯は以下のようなものとなります。
事故の直後、小学校と京都市教育委員会からは事故の調査結果が説明され、当日の水泳指導における水位の深さや監視体制の不備が招いた危険性については率直な言及がありました。しかし、私たちが最も知りたいと考える、どのような状況の中で羽菜が事故に巻き込まれ、そのまま命を落とすような事態になってしまったのかという部分、直接的な溺水の原因については、誰も見ていない空白の時間とされたまま、明らかにはなりませんでした。
両親は、民事裁判を通じて証拠が提出されることを期待しましたが、京都市によってさらなる調査が行われることはなく、空白の部分はそのままに残され、原因究明はなされませんでした。そこで、さらに両親は、水泳指導および緊急救護にかかわる学識経験者、弁護士らによって構成された第三者調査委員会を設置し、空白の時間を埋め、事故の全貌を明らかにすることを京都市教育委員会に要望しました。二度と同じような事故を起こさないためには、娘の事故の原因を徹底的に究明し、その結果を踏まえた上で、実情に添った防止策を立てることが重要と考えたからです。
京都市教育委員会は、その要望に応え、両親とともに委員を選出し、委員会要綱を作成するなど、協働して調査委員会設置へ向かいました。そして、事故翌年の平成25年7月26日、「京都市立養徳小学校プール事故第三者調査委員会」が設置され、一年間の調査が行われた結果、昨年7月26日には事故調査報告書が提出されました。
しかしながら、非常に残念なことに、この報告書は客観性・科学性という点では極めて不十分と言わざるを得ないものでした。事故以来、両親が一貫して明らかにすることを求めてきた溺水への経緯については、一応の事実認定が示されましたが、報告書を読む限りにおいて、その認定の根拠は多数の矛盾や論理の飛躍を含むものであり、再現検証が行われたにもかかわらず、数的データによる実証的な裏付けに欠けていたからです。
そこで両親は、第三者調査委員会の任期中に、報告書に対する質問状を二度にわたり提出しましたが、解散が迫っていることを理由に、その質問に対する回答が十分に行われることはなく、そのまま調査委員会は解散に至りました。しかもこの度、解散と同時に、一年間にわたって行われた調査資料の一切が廃棄されていることも判明いたしました。
教育委員会と両親の協働による調査推進の動き、学校におけるプール事故に対しての調査委員会設置は、これまでにはなかったものと聞いております。第三者調査委員会設置時点では、学校事故にかかわる調査のモデルケースとなるべきものとも言われました。
しかし今の状況は、遺族の納得できない杜撰な報告書だけが残り、遺族の疑問は放置され、報告書を立証すべきものであるはずの調査資料はすべて廃棄されているというものです。私たちから娘を奪った事故に対する調査がこのような形で終了し、前例となることを、少なくとも私たち両親は望んではおりません。両親は、第三者調査委員会の報告書を踏まえつつ、非力な個人としてではありますが、今後も独自の検証を進めていく覚悟でおります。
私たちは、平穏な夏の日に、安全であるべき学校のプールで娘を奪われました。宝物とも思って育ててきた一人娘は、大好きだったプールに楽しげに出かけたまま、変わり果てた姿となって両親の前に戻ってきたのです。娘とともに幸せに過ごすはずだった日々は、学校や教育委員会、第三者調査委員会への度重なる折衝や要望に明け暮れる毎日に変わり、私たちは砂を噛むような思いを繰り返し味わってきました。娘の死に絶望するだけでなく、さらに消耗し、打ちのめされ、傷ついてきた2年半であったと思います。
教育機関及び調査機関の事後対応の姿勢は、そのまま事故発生以前の、子どもや保護者への学校の対応のあり方、姿勢に通じるものと私たちには感じられます。私たちの体験した事後対応を丁寧にお調べいただき、さらに上記の3点についてご検討をいただくことで、真に「子どもの命を守りきる」ための重要な知見を導き出すことが可能となるはずです。
それにより、最も守られる場所であるはずの学校で子どもが死ぬというような、あってはならない事故がなくなることを心より願っております。そのために、遺族としてできる限りのご協力をさせていただく所存です。
以上の要望について、貴会議にてご検討をいただき、できれば2月末日までにご回答を賜りたくお願い申し上げます。
以 上